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病気と折り合って、生きる生き方          「これで、いいじゃん」と考える

更新日:2021年10月21日

 人間は病気になると、当り前ですが、病気を治そうと本能的に闘います。病気と闘って生きる生き方が闘病生活です。それと対照的な生き方が、病気と折り合って病気と共に生きるという生き方です。

 病気には風邪のように治れば以前と同じ健康状態に戻れる病気もありますが、癌やリュウマチや統合失調症のように、慢性で治り難い病気もあります。このような慢性の治り難い病気は、病気としてその病気を受け容れて、その病気と折り合って生きる姿勢が大事です。

 病気以前の元通りの自分に早く戻りたいと思うと焦りが出ます。焦りは不安を生み出します。不安は怒りの一種です。病気を治そうと焦らないで、病気を上手にコントロールして、病気を持ちながら、自分らしく、よりよく生きようと考えたほうが楽です。

 病気と闘うことをやめて、病気と仲良くして、病気と闘うエネルギーをどうすることが自の人生を充実させることか、を考えることの方が建設的です。癌分のような難治の病気や統合失調症のような慢性病、更には死という、人間誰しも避けることのできない運命を素直に受け容れることは、残された人生を充実させ、意味あるものにする唯一の手段だと思います。

 もし、病気が治り難いと分かったら、頑張って無理をしないで、辛抱強く、諦めないで、あなたの立てた人生の目的を達成するようしっかり生きることです。あなたは闘病によって無駄とも思われる貴重な時間を費してきました。これからは残された人生をどう生きるかを前向きに、病気と折り合って、どんな小さな目標であってもよいですから目的に向って生きることです。

 スイスの哲学者、ヒルティは「河の氾濫が土を掘って田畑を耕すように、病気はすべての人の心を掘って耕してくれる。病気を正しく理解してこれに堪える人は、より深く、より強く、より大きくなる」といっています。

 癌や統合失調症のような治り難い慢性の病気は、変らないかも知れません。しかし、自分のこころは変えることができます。「今も生きている」「これまで生きられた」「これからだって、きっと良い日が来る」と「これでいいじゃん」と気持ちを切り替えることです。これが病気を受け容れ、病気と折り合って生きることです。


不安や恐怖は心から生じます


 統合失調症の妄想や幻聴は確かに嫌な症状です。この症状の根底にあるのは、不安と恐怖です。「親が死んでしまったら」「病気はこのまま治らないのかも」「働けないとしたらどうしよう」など様々な不安を抱いているでしょう。また、一方では「なんで自分がこんな病気になって苦しまなければならないのか」という怒りもあるでしょう。先にも述べたように、不安は怒りから生まれます。では不安や怒りは、どこから、どうして生じているのでしょう。不安や怒りは私たちの心から生じているのです。

 私は大学時代、強い自己嫌悪感に陥って一年休学して、三島の龍澤禅寺に六ヶ月置いて頂いたことがありました。中川宗淵老師に最初に教えられたことは、禅の基本の「数息観」でした。「『息』という字は自分の心で出来ています。字の如く息が整ってくると、乱れた自分の心も自から整ってくるから息を数えながら息を整えなさい。」というものでした。

 医学的にみても私たちの臓器の多くは自律神経の働きで動いています。心臓も腸も胆のうも、その働きを自分の意志で止めることはできません。だから「心臓を1分間止めて」といわれても、それはできません。ところが、同じように自律神経の支配を受けている肺の働き・呼吸だけは、自分の意志で止めてコントロールすることができるのです。この呼吸を利用して自律神経を調整し、コントロールすることが可能なのです。

 このように禅の「数息観」は科学的にも精神を安定させる方法として有効であることは確かです。

 私の恩師・橋本敬三先生は「息、食、動、想」が天地自然の理に適っていれば健康になれる、とおっしゃっておられました。ここでも最初に「息」が出てきます。ヨガでも武道でも芸道でも呼吸がきっちり決っていないと上達できません。

 腹式呼吸法を覚えて、毎日実行することが大切です。呼吸の呼は息を吐くことです。吸は吸うことで分ります。呼吸も字の通り、吐くことが先です。寝る前に呼吸法を行ってみて下さい。寝る時に布団の上で膝を立てて、下腹に手を当てます。できるだけゆっくり息を吐きながら下腹をへこまします。我慢できなくなったら鼻から肺と腹に一杯吸い込んで、またゆっくり腹式の呼吸をくり返して下さい。毎日十回繰り返していると立っていても座っていても上手にできるようになります。息が整うことは自分の心が整うことです。

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