統合失調症が一つの病気なのか、それともいくつかの病気が重なっているのかは、現在でも定説はありません。薬を服用すると精神的混乱が治ることから脳内の神経伝達に障害が起こっていることは解っています。統合失調症も、うつ病も「ストレス病」の一種と考えてよいでしょう。
精神科の薬はストレス緩和剤ですから、患者本人が楽になれば大量に服用する必要はないのです。統合失調症を代表する症状は妄想と幻覚・幻聴ですが、その根底には恐怖と不安があります。統合失調症に限らず、うつ病でも、不安神経症でも精神疾患には、自然の回復力が大きく働きます。不安と恐怖が減少すれば、妄想や幻聴があっても、それほど深刻ではなくなります。
強いストレスを受けると、脳の何十億というニューロンの結合が阻害されます。うつの状態が長びくと脳の一部が萎縮してしまいます。慢性のストレスを感ずると脳は同じパターンに、はまり込みます。その典型は、悲観、恐怖、不安、引きこもりなどです。
運動は、心とからだにかかるストレスをたくみにコントロールして細胞レベルにも働きかけます。実は、運動そのものがストレスの一種ですから、それがニューロンを傷つけますが、通常は修復メカニズムが働いてニューロンはむしろ強くなります。ニューロンは筋肉と同じように一旦壊れても、より丈夫に作り直されるのです。ストレスによって鍛えられ、回復力を増していきます。こうして運動によって心身の適応能力が増していくのです。
脳では、ストレスのためにニューロンが弱くなると軸索と樹状突起の接合部のシナップスが蝕まれ、最終的には繋がりが切れてしまいます。
運動すると神経化学物質や成長因子が次々に放出されて脳の基礎構造を強化することができます。運動によって生み出された脳由来の神経栄養因子はニューロンの回路、つまり脳のインフラを構築して維持します。
運動によって増えた脳由来の神経栄養因子は、セロトニンを増やして、私たちを落ち着かせ、安心感を高めます。運動は、抗うつ剤や抗不安剤と同じように効果があるのです。ストレスが多ければ多いほど、脳をスムーズに活動させる為に、からだをたっぷり動かす必要があるのです。
運動で不安と恐怖を和らげる
環境を悪化させると脳は、萎縮します。しかも、脳の神経細胞の量は生まれつき決まっていて、青年期に完成した後は、変わらないというのが定説になっていました。ニューロンは失われる一方だというものでした。ところが今世紀には、高度な画像機器を使って脳の中をのぞきこめるようになって、運動によって脳由来神経栄養因子が増えると、新しいニューロンがつくられることが解ってきました。ニューロンの新生は、確かに感情面、認知面での環境との相互作用に関係しています。
運動をすると、からだの筋肉の張力が緩むので、脳に不安をフィードバックする流れを断ち切ることができるのです。筋肉を動かすと蛋白質が作り出され、血流に乗って脳にたどり着き、高次の思考メカニズムにおいて重要な役割を果たします。
運動をすると、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの意欲や感情にかかわる重要な神経伝達物質が増えます。エンドルフィンは、からだと脳で分泌される内因性ホルモンです。からだと脳にストレスがかかると、分泌されます。痛みの信号をブロックして、私たちに身体的苦痛を乗り越えさせてくれます。快楽と満足・至福のホルモンといわれています。運動をすると、このエンドルフィンが増すだけでなく、抗うつ剤の標的になっている、神経伝達物質のすべてを調節する働きがあるのです。運動には、薬と同じくらいの効果があるのです。
運動がすぐれているのは、日常、感じている不安に対して、からだと脳の両方に効果があることです。運動をする目的は、脳を育て、よい状態に保つことです。
不安をコントロールしよう
パニック障害は、不安障害のうちで最も辛いものです。運動によって不安はコントロールでき、パニックは防げることを学びましょう。
運動は筋肉の緊張をほぐす
運動はベータ遮断薬と同じように、からだから脳に送られる不安の回路を断ち切ることができます。
ストレスの閾値を下げる
運動は過剰なコルチゾールによる腐食を抑えることができます。コルチゾールは慢性的ストレスから生じて、心とからだを蝕み、うつや認知症を導きます。運動にはストレス軽減の効果があります。
免疫力が高まります
運動によって免疫機能が大幅に改善できることが近年、確かめられました。ストレスと老化が、免疫力を低下させます。
薬と運動を組み合わせて、不安と恐怖を克服しましょう。
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